よほど特別なことをしない限り、通常は、インヒビター入れなくてもクマシー染色で蛋白質の泳動パタンが変化するほどの明らかな蛋白質の変化はおこらないと思います。ただ蛋白質によっては分解を受けやすかったり、非常にターンオーバーの速い蛋白質もありますので、自分の調べたい蛋白質がそういう性質のものであればインヒビターの添加はとても重要です。でもインヒビターを入れたから大丈夫ということではなくてある程度抑えられると考えた方が正確です。PMSFはセリンプロテアーゼに対する優れた阻害剤ですが、それ以外の種類のプロテアーゼにはあまり効果は期待できません。また溶液状態ではとても不安定で長持ちしません。最近はPMSFの代わりに、溶液中でもより安定で水溶性のAPMSFが使われることが多いです。1970年ー80年代前半くらいのクロマチン関係の論文を見ると分かると思いますが、もともと核内にはクロマチンに強くアソシエートしたセリン系中性プロテアーゼの存在が知られており、それで経験的に核蛋白質を分離する際にはPMSFを入れる事が推奨されてきたのではないかと思います。細胞内にはいろいろな性質のプロテアーゼがありますし、細胞の破砕により活性化するものもあるかもしれません。よって、あとの実験に支障がないならば、市販されている阻害剤のカクテルを使うことがよいのではないかと思います。プロテアーゼ対策で一番重要なのは極力0-4Cの状態を保ちながら出来るだけ迅速に核を分離してしまうこと、凍結融解の機会を最少限にするように実験スケジュールを組むこと(蛋白質分解を避けたいときは、凍結融解は要注意です。)、試料を保存する場合は-20Cでなく-80C前後のディープフリーザーを使うことです。 |
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