まず、一般にHPLCの移動相に用いる酸、塩基はカラムおよび配管に腐食をはじめ悪影響を及ぼすので、通常は中性(有機溶媒のみふくめ)に戻して洗浄します。よく「同じ移動相を使うから」と洗浄せずにHPLC,カラムを放置する方がいらっしゃいますが、寿命を縮めます。ですからTFAのみではありません。
TFAは0.1%以上は使いませんし、使いたいというユーザーがいたら断ります。理由はIon Suppressionです。また、流路というよりはスプレーした後のオリフィスなどに付着して残ります。簡単に除去しきれない場合もあります。後の使用者の実験に大きな影響を及ぼしかねないので、MSの管理者の指示に従ってください。ちなみにTFAがネガティブで検出されやすいのは酸だからです。ですが、TFA自身がイオン化されるので、たとえTFA分子として検出されなくても、ペプチドのイオン化を妨げます。ですからポジティブで測定しても妨害されることに変わりはありません。
理想としてはHPLCの段階できれいにピークを分離しMSで測定することが望ましいのですが、Ion Suppressionがある以上、TFAの利用はお勧めしません。使うとしても0.1%より低い濃度で使います。もしくは蟻酸を利用します。MSのgas phase reactionの関係で、どうしても移動相には制限が生じます(使える酸、緩衝液の制限など)。
ここで考えていただきたいのが、HPLCのみの場合、TFAの方がピーク分離がよかったとしても、1ピーク=1ペプチド では必ずしもありません。つまり完全なペプチドの分離は非常に難しいのです。ですから、蟻酸を用いてピーク分離が悪くなったとしても、ペプチドの同定ができないとは言い切れません。これはザンギさんが書かれていることにつながります。
どうしてもTFAでの分離のよさを活かしたいのであれば、HPLCでピークを分取し、『一度すべての溶媒を飛ばし(TFAを飛ばし)てから』MSにかけてはいかがでしょうか。
論文検索すると、これらの問題に関するものが多数出てきます。それらを読むと理由がよくわかると思いますよ。
繰り返しますが、MSの管理者の指示に従ってください。MSの管理者は「すべての」研究者に良い結果を提供すべくマシンを維持・管理なさっているはずです。あなたご自身の判断で好ましくない条件で測定した場合、復旧に膨大な時間がかかり、他の研究者の仕事にも影響がでてしまいます。厳しいようですが、共同研究者でなかなか理解してくださらない方もいたので、あえて書かせていただきました。 |
|