色々な意味で興味深いのですが、ヒトの場合(臨床の現場での話)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)は基本的に経静脈投与で用いられます。血管から漏れると組織障害を起こすので、長時間投与が必要な場合は中心静脈カテーテルを留置して投与します。なので、腹腔投与はちょっと驚きです。薬剤性の腹膜炎とか、起こさないんですかね? 確かに文献的には、マウスでのドキソルビシン腹腔内投与は普通に行われているようなのですが、animal welfareの面でちょっと気になります。ただ、尾静注も血管外漏出のリスクがかなりあり、組織障害性のある抗がん剤の投与経路として適切かと言うと、何とも言えないんですけどね。
薬物動態的には、経静脈投与と比べた場合、ドキソルビシンの腹腔内投与ではbioavailabilityが下がる、あるいは比較的緩徐に吸収されるとの報告もあるようです。10mg/kgというのも腹腔内投与の量としてはちょっと高いかもしれませんね。尾静注の手技に熟練していて、反復投与を必要としないプロトコールであれば、尾静注で投与する方が良いかもしれませんね。
ちなみに、他の抗がん剤(例えばシスプラチンなど)では、臨床でも腹膜転移症例などで腹腔内投与が行われる事がありますし、自分自身、マウスでシスプラチン腹腔内投与の実験を行った事もあります。抗がん剤と一括りにするより、それぞれの薬剤において、適切な方法は何か、個別に考えるべき事かもしれませんね。 |
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