小胞輸送を研究している博士課程の大学院生です。
endocytosisされた分子が分解経路に流れずGolgiに運ばれる経路を、逆行性輸送経路(retrograde transport)といいます。逆行性輸送を受ける分子の大部分は、初期エンドソーム(EE)でretromerと呼ばれる分子群によってゴルジ体へ運ばれることが明らかになっていますが、逆行性輸送への選別のための目印のようなものがあるのかどうかは正確には明らかになっていません。
一方、retromerは細胞膜へのリサイクリングにも機能することが報告されており、その輸送ではretromerと結合して機能するSNX27というタンパク質のPDZドメインが、GPCRを含むいくつかの受容体のPDZドメイン認識配列を感知している、という知見があります(Steinberg et al., NCB 2013))。PDZドメイン結合モチーフをもつGPCRは、通常はendocytosisされた後に細胞膜ヘとリサイクリングされますが、retromerやSNX27を発現抑制すると分解系へとミスソートされてしまいます。
この論文において、SNX27と結合する分子の中に、逆行性輸送を受けて細胞膜とGolgiを行ったり来たりしているATP7Aという分子も含まれています。よって、細胞膜からエンドソームを介してGolgiへと逆行性輸送を受ける受容体も、分解されないようにするために、PDZドメイン結合モチーフを分解を逃れるための目印としている可能性があります。
ところで、シガ毒素やコレラ毒素はそれぞれGb3, GM1という糖脂質に結合してendocytosisされ、エンドソームを介してGolgiへと運ばれます。これら糖脂質は脂質ラフトに存在する分子ですので、脂質ラフトそのものか、あるいは脂質ラフトを好んで局在する膜タンパク質が、Golgiへの輸送の目印となっているのかもしれません。
細胞外にある可溶性タンパク質XをGolgiへと運びたいのであれば、Xを毒素やATP7Aなどの逆行性輸送を受けてかつPDZドメイン認識配列を持つ受容体に結合させるか、逆行性輸送を受ける分子の抗体をXにつけるかして、golgiにあるfurinなどの酵素でその結合を切ってもらう、という手があるかもしれません(上手くいくかはわかりませんが)。いずれにせよ、細胞外の可溶性タンパク質をGolgiへ運ぶには、逆行性輸送をハイジャックする必要があるように思います。 |
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