抗体をprotein Aビーズに結合させた後に架橋剤を用いて両者を化学的に共有結合させる場合と、単に結合させて架橋処理なしにそのままIPに使用する場合があります。酸性buffer中ではprotein Aも抗体分子も(蛋白質ですから)でそれなりに変性しますので、後者の場合ならば、Protein AとFcポーションの間の結合はゆるんで外れますので、抗体は抗原とともに溶出されてきます。一方でprotein Aと抗体のfcポーションの間を化学的に架橋しておけば、これは共有結合ですので、理論的にはたとえ変性してもはずれることはありません(実際は架橋率は100%でないので架橋しそこなった抗体は少しはあるのでそういうのは溶出液中に漏れてきて検出されることはありますが、何も架橋しないときとくらべればその混入は格段に少ないです)。結果として抗体はビーズに残り、抗原のみが溶出されてきます。
架橋するかどうかは実験の目的や調べる蛋白質によりますので、特に必要なければ無理にしなくてもいいです。架橋のような化学処理により抗体の活性(適当な言葉が分からないので取り敢えず活性といいます)が低下するものもレアケースながらありますが、全然だめになるということは経験ないです。たいていは問題なく使えてます。
分析したい蛋白質が分子量的にイムノグロブリンのH鎖やL鎖と重なる、あるいは近くてWestern blot等での分析に支障があるとか、イムノグロブリンのシグナルのバックでレーンが汚くなってマイナーなシグナルが隠れてしまうとかいうことがあれば架橋したほうがbetterです。こうした問題は架橋することでかなり改善されます。溶出液に仮にビーズが混入しても抗体分子は(架橋しておけばSDS処理でもビーズからはずれないので)ゲルのウェルの底部分にビーズとともに残りますのでゲルに入ることは(理屈上は)ありません。前述の理由から実際には少しは検出されますが。
ProteinAはビーズにすでに共有結合させた状態で市販されていますが、この架橋も100%でないので、proteinAが酸溶出の際に漏れて溶出液中に混入することがあります。このprotin Aはwestern blottingの際に2次抗体と反応して異なる複数の分子量のシグナルを示すことがあります。
この手の実験では抗体由来、protein A由来のシグナルと目指す蛋白質のシグナルの識別が大変重要なのでコントロールについては十分に検討ください。(あたかも本物っぽいシグナルはよく出ます。で幻を追って後悔することもあるので)そのためにもバックグラウンドのシグナルは可能な限り出ないようにする対策は重要で、その意味では架橋はたいへん有効な手段です。
この目的で使われる架橋剤の種類はいくつかあります。架橋の方法は細部はバリエーションありますが、すでに確立していて汎用されている方法がいくつかあるので、ネットや成書を参照ください。架橋剤の多くは抗体およびprotein Aのリジンやアルギニン残基のeアミノ基どうしの間で共有結合をつくるので、その場合は架橋反応時にアミノ基をもつ成分が共存していると競合して反応がうまくいきません。よって架橋反応の際はTris bufferのようなbufferは使用出来ません。(もちろん架橋反応したあとの工程では別に構わないです)
最近は架橋処理の面倒は省くため、western blottingの際に溶出液中のIgGとは反応しない2次抗体も市販されています。経験では検出感度的に普通の2次抗体とくらべてやや鈍い感じがありますが |
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