何と言いますか、質問が抽象的で何を答えたらよいのか、取り敢えず概要を述べます。
CUT&Tagは2019年にHenikoff labによって開発された手法です(PMID: 31036827)。CUT&TagはCleave Under Targets and Tagmentationの略。ちなみにCUT&RUNも同じラボが開発しました。基本的にはChIP-seq の改良版と捉えてそれほど間違いではありません。
本題の前にChIPから。ChIPは、転写因子やクロマチンといった注目しているタンパク質が、ゲノムのどの配列と相互作用しているのかを決定する手法です。特定のタンパク質に対する抗体を使い、架橋剤で抗体-対象タンパク質-近傍のゲノム配列の複合体を形成し、複合体中のゲノム配列をPCRやクローニングなどを使って決定します。
ChIP-seqは、ChIPと抗体-対象タンパク質-近傍のゲノム配列の複合体を形成するところまでの手順は一緒です。その次のステップとして次世代シークエンサーを用いることで、複合体に含まれるゲノム配列を網羅的に決定出来るようにしました。
ChIP-seqは現在の主流ですが欠点が無いわけではありません。架橋剤を使って複合体を形成するので、全く関係の無いゲノム配列も架橋されてしまうことがあります。こうして生じるノイズに対し、真に相互作用している配列を決定するためには、ある程度の細胞数と次世代シークエンサー解析コストが必要になります。
こうした欠点は、これまでは問題にはなりませんでしたが、初代細胞やヒト患者検体、1細胞同士の違いの検出といった、近年研究内容が高度化するに従ってChIP-seqが十分ではないケースが出てきました。
その欠点の技術的な解決を図ったのがCUT&Tagです。CUT&Tagの利点は、必要細胞数の少なさ(開発者は1細胞でもやっています)とコストの低さです。
まず架橋剤を使いません、これによりノイズを下げ必要細胞数と次世代シークエンサーのコストを減らしています。次に「次世代シークエンサーにサンプルを掛けるのに必要な前処理用キット」もコスト高の原因でしたが、CUT&Tagではこれが不要です。
ただ問題が全くないわけではありません。まず架橋剤を使わないので余程強くタンパク質とゲノム配列が結合していないと途中で外れ、一部の配列が解析から漏れてしまうといった現象が起こります。また新しい手法という事もありChIP-seq用の抗体がCUT&Tagでは使えないケースがあります。そしてChIP-seq自体も改良が進み、微量細胞用のChIP-seqキットが出ています。流石に1細胞の解像度では配列決定は出来ませんが。
こうしたことから、CUT&TagはChIP-seqの上位互換というよりは、いましばらくChIP-seqが主流で、特定の目的に置いてCUT&Tagが使われるのではないかと(私は)考えています。 |
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