言葉について。
"PCR" (polymerase chain reaction) はその名の通り、連鎖反応によってポリメラーゼ反応物を指数関数的に増幅させる方法論です。従来の"polymerase reaction"との決定的な違いは「指数関数的増幅」にあると言えます。
ですから、線形的に増幅する方法論は、指数関数的増幅ではないのですから、本来の意味からすれば"PCR"と呼ぶことはできないはずです。
したがって、他の方もご指摘の通り、たとえばQuickChangeは指数関数的増幅ではないのですから"PCR"とは呼べません。
さて、言葉は変化するものでして、線形的増幅か指数関数的増幅かを問わず、耐熱性ポリメラーゼを使って、サーマルサイクラーで変性、アニーリング、伸長のステップを繰り返してDNA断片を増幅する方法論のことを総じて"PCR"と呼ばれている向きも一部にはあるようです。
線形的増幅を「PCR」と呼ぶかどうかは、結局は科学コミュニティー内の受容の程度によるのではないでしょうか。
私は線形的増幅を"PCR"とは呼びませんが。
なお、種々のシームレスクローニングで行われているように、プライマーの配列や位置を工夫し、指数関数的に増幅させる方法論ならば、本来の意味での"PCR"で間違いありません。
トピ主さんの増幅様式が分からないので、それが"PCR"かどうかは現時点では判別できませんが、
> この時にPlasmidをぐるっと一周させるようなPCRを行い
ということですので、たぶん"PCR"でよいのではないでしょうか。
"Inverse PCR"の用語の初出は1988年の論文だったと思いますが、ゲノム上の既知領域に隣接する5'側上流の未知領域や3'側下流の未知領域を解析するための方法論に対する名付けです。
鋳型DNAを環状化し、未知領域の両側を既知領域で挟み込む形にした上でPCRを行います。これが概念上、「通常のPCRに対して反対方向にPCRを行う」イメージなので"inverted PCR"とか"inverse PCR"と名付けられました。
もちろん実際の生化学的反応はinverseではあり得ません。あくまで、元のゲノム上の位置関係から観てinverseであるということです。
ところが、その後、環状DNAを鋳型として、GOI(CDS, ORF, insert, etc.)に対するベクター側の増幅をも"inverse PCR"と一部で呼ばれるようになりました。
こう呼ばれるようになってしまった理由は分かりませんが、ひょっとしたらGOIに対して"inverse"ということなのではないかと推測します。
こちらも、"inverse PCR"と呼ぶかどうかは、コミュニティーの受容度合いによるのではないでしょうか。
私は"inverse PCR"と聞くとどうしても上述したゲノム解析のことをイメージしてしまうので、違和感があります。私が古い人間だからかもしれませんね。 |
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