もう割と昔の話ですが、抗体で残念な経験が2回あります。
1)人にいいと言われて6万円くらいの抗体を買いました。でもウェスタンでも免疫染色でも色々条件変えても何もシグナルが出ませんでした。友達が冗談でそれもしか中身ただの水じゃね、というのでまさかそんなことはないだろうと思いつつ電気泳動して染色してみました。したらゴミみたいな汚い薄いバンドみたいなのはいくつか出ましたが抗体のバンドらしいバンドは何も出ませんでした。後でタンパク質濃度を測るとほとんど測れないくらい薄く、表示濃度とは全然合いませんでした。(なのでたぶんほんとに水かPBSだったのだろうと思います)。メーカーに問い合わせたら、「いいえ、んなわけないです、ほんとに正しい条件でやってるんですか?」みたいに、なんか私が変なやり方してるからではないかみたいな返事が来たのでじゃあこれみてくださいよとそのデータ送りました。以後2度と返事来ませんでした。この抗体はいいと勧めた人にも聞いたら、その人は、自分は知らないよその人が学会でこの抗体はいいというのを聞いたのであって自分が使ったわけではないし詳しいことは知らない、みたいに言われました。
2)他にも、ある高分子量の酵素に対する抗体を購入したら綺麗なシングルバンドでactinがしっかり染まったこともあります(これなんのタンパク質よと思い2-DPAGE して muldi Toff Massで同定したらactinだった)。westernだから気がつきましたがELISAや免疫染色だったら気がつかないので、研究がとんでもなく間違った方向に行くところでした。
今はそういうことも少なくなってるとおもいますが。
なので最近言われている生命科学系研究の再現性の問題の主たる原因の一つに抗体の問題があるのはたぶんほんとだと思います。ただこれは、ユーザー(研究者、技術者)あるいは個々のメーカーの努力だけではたぶん解決しないし、コスト的にも技術的にも時間的にもできる範囲には限界があると思います。ATCCみたいなとこが微生物や遺伝子や培養細胞株を統括して維持管理するように(あれも確か昔、多くの培養細胞がHeLaがクロスコンタミネーションしてて世界中大騒ぎになったこともあってできたような気がする。)、自作または寄託された抗体を所定の検証をへて管理供給するような非営利 or ナショナルセンター的な機関を設置してもいいのではないかと。ユーザーからユニークな使用用途や問題点について新たな情報があれば随時up dateして情報共有すれば横の連携も強まるし。少なくとも(これただの水じゃね?みたいな)ハズレ抗体買ってしまい研究費を数万円無駄してしまうことを年に何度となく繰り返したり、長い時間かけた研究が根底から崩れたりするような悲しいことはなくせると思います。 |
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